第78章 灰色の世界
『よせ…!ルベリエ!』
「…ヘブラスカか」
ルベリエの襟元に飾られた通信機から届いたのは、ヘブラスカの声だった。
こんな切羽詰って荒げたヘブラスカの声は、初めて聞いたかもしんねぇ。
『此処には直、レベル4がやって来る…リナリーとイノセンスが…上手くシンクロするのを待つ時間はない…!』
「一瞬でいいのですよ。イノセンスをリナリーの体内に入れてくれるだけでいい」
『なんだ…と…!』
「勘違いしないように。これはリナリー本人からの要望だ。彼女は"偶々"過去のあの実験を知っていたのでね」
"あの実験"ってのは"使途を作る実験"のことか。
そのワードが出た瞬間、通信機越しでも息を呑むヘブラスカの動揺が伝わった。
…ヘブラスカはその実験に直接関与していた一人だからな。
『ば…馬鹿を…言うな…リナリーは仲間…だ…そんなことは…』
「"仲間"…?は…これは"命令"ですよ?へブラスカ」
ルベリエの口角が上がる。
笑ってるけど、それは到底人の言う"笑顔"なんかじゃなかった。
「貴女が百年間、"命令"に従順に従って自分の一族にやってきたことと、どう違うのかね?」
冷たく嗤う。
それは見下すような顔だった。
「命令だ、ヘブラスカ。やりたまえ」
端的にそれだけ告げて、返事も待たずに通信機を切る。
「自分の…一族…?」
「なんでもない。急ぎたまえ」
リナリーも引っ掛かったんだろう、その言葉にルベリエは目を向けることすらしない。
背を向けたまま地下へと続く階段に向かうその後を、武器庫から拾ってきた槍を手にオレも追った。