第78章 灰色の世界
✣
大粒の涙を目に浮かべて、それでも歩みを止めなかったリナリー。
その後ろ姿を咄嗟に追うことはできなかった。
震える体で、精一杯立ち上がって、戦いに身を投じるその姿に、なんて声をかけたらいいのかわからなかったから
エクソシスト仲間としての"ラビ"か、ブックマン後継者としての"ラビ"か。
どの立場でものを言えばいいのか、わからなかったから。
「可笑しいわよ…」
「婦長…」
「こんなの可笑しい…」
嘆く婦長の声が、微かに木霊する。
其処はもう真っ暗な部屋じゃない、開いた扉の外から差し込む光で照らされている。
先へ進む道はある。
でもオレは何処へ向かうべきなのか。
迷わず第五研究所に向かいたいのに、最後に見せたリナリーの涙顔が気にかかる。
それはエクソシスト仲間としての心配か、ブックマンとしてのイノセンスへの興味か。
わからない。
「…っ…くっそ…」
こんな所で躊躇なんかすんなオレ。
今は一刻を争う事態なんさ。
一刻も早く、南やジジイ達の安否確認をすんのが先だろうが。
「ラビ!?」
ダンッ!と開いた扉に拳を叩き付けて駆け出す。
婦長の呼び止めには応えなかった。
悪い婦長。
でもとにかく、立ち止まってちゃ駄目なんさ。
「南…ッ無事でいろよ…!」
向かった先は第五研究所。
嫌な予感は振り払えないまま、そんな言葉を吐き出すことしかできなかった。