第78章 灰色の世界
「リナリー!」
婦長の声に背を向けて、光の中に歩み進む。
振り返っては駄目。
私が此処で戦う理由は、兄さんだから。
あの人を守る為に、私は此処にいる。
「そうだ、リナリー・リー。所詮…逃げられはしないのだから」
傍らに立つ長官の声は、聞こえないフリをした。
"此処にいてくれ。お願いだから…"
兄さん…泣いてた。
扉の向こうで、戦場に行かせまいと、私の為に。
涙を流してた。
「…ごめんなさい…」
涙が頬を伝う。
ごめんなさい。
言いつけを守れなくて。
ごめんなさい。
泣かせてしまって。
ごめんなさい。
私を守ろうとしてくれていたのに。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
私はいつも、兄さんを犠牲にしてばかりでしかない。
いつも守られてばかり。
兄さんにも、ラビにも、婦長にも。
だから今度は、私が守らないと。
泣いてばかりの小さな女の子じゃいられないから。