第78章 灰色の世界
「な…んだよ、これ…」
ぱちぱちと光る粒上の火の粉が散る。
ぱちぱち、ぱちぱち
そんな音しかしない。
辿り着いた第五研究所の出入口を覆っていた謎の黒い壁は、消えていた。
開放されているその研究所の大広間にあったもの。
其処には、何もなかった。
「なん…っ…南ッ!ジジイ!アレン…!」
ぱちぱちと火の粉が散る。
近付けばむわっと強烈な熱気が襲って、中に入ることすらできない。
研究室内の床一面、大きく抉られていた。
歩く場所もない。
抉られて剥き出しになった床の下は、白にも近い光の強い炎の海だった。
呼んでも応える者はいない。
あんなに沢山いた研究員の姿も、エクソシストや元帥の姿すらない。
真実だった。
教団内に鳴り響いた警報が、告げていたことは。
全部真実だったんだ。
「冗談キツいさマジで…!おい、南って…!」
声を張り上げる。
やめろって、ほんと。
頼むから。
「ッ…ジジイ!返事しろよ…!パンダジジイ!!」
いつもならそう呼べばすぐに飛んでくる遠慮のない鉄拳が、今はない。
「南…ッ」
眩い炎の海の光が目に痛い。
痛くて痛くて、直接見てられなくて目を擦る。
「…っ」
擦った傍から、光が薄れていく。
真っ白だった光が、灰色に変わっていく。
「ッ…!」
駄目だ、変わるな世界。
オレはまだ諦めちゃいねぇから。
まだ遺体を見た訳じゃねぇんだから。
何処かに隠れているのかもしれない。
もしくは、怪我して動けないだけだとか。
…その存在さえ消されたなんて、馬鹿げたことは信じねぇから。
オレってば現実主義者だからさ。
夢見る年頃は卒業したんさ。
ちゃんと自分の目で見て、経験して、学んだことしか信じねぇから。
信じねぇからな。