第78章 灰色の世界
"今日から兄さんもこのおうちに住むよ"
"…え…"
"また一緒に暮らせるからね"
此処に住むって?
どういうこと?
なぁに?その恰好。
なんでそんな服を着てるの?
それ、此処に住んでるエクソシストと同じ紋章が付いてるのに。
"もう離れないから"
"っ…兄さ…ッ"
私はイノセンス適合者の人間。
エクソシストに選ばれた私の道は、AKUMAと戦う血塗られた道。
其処に一人で立っていた私に、寄り添ってくれたのは兄さんだった。
自分の力で、道を切り拓いて。
私の為にこの黒の教団の"科学班室長"の地位について入団してくれた。
私の為に。
「君はエクソシストだろう!!!」
ルベリエ長官の罵声が響く。
…わかってる。
そんなこと、昔から何度も何度も周りの大人達に言われ続けた。
知りもしないイノセンスの適合者だなんて言われて。
したこともないAKUMAとの戦闘を経験させられて。
物心ついた頃から、定められた道。
わかってるよ。
───…タンッ
婦長に借りていた靴を脱いで、冷たい地面に素足を下ろす。
「リナ…?」
「駄目よリナリ…っどうして…ッ」
「来ないで婦長」
戸惑うラビと婦長の声。
それを遮って、立ち進んだのは光が差し込む外へと続く道。
戦いの待つ道。
「ありがと…」
体が震える。
それを抑えるように、ぎゅっと自分の体を強く抱きしめた。
「私…兄さんが来てくれたあの日…もう…此処から逃げられないと思った」
ずっと牢獄のように感じていた黒の教団。
その牢獄の中で、私が唯一願った人を見つけてしまった。
その人は牢獄に住む人達と同じ紋章の衣服を身に付けて、私の傍で笑っていた。
そうやって、私を一人の孤独から守ってくれて。
…そうやって、この牢獄に"捕えさせた"。
「あの時、私は逃げることをやめたの」
私の為に、全て捨てさせてしまった。
未来も自由も、狂わせてしまった。
私が此処に閉じ込めた。
「やめて…エクソシストになったんだよ…」
私以外の全てを捨ててくれた、あの人と生きる為に。