第78章 灰色の世界
「エクソシストが守られてどうする」
「おい…!」
長官の言葉を止めるかのように、ラビが声を荒げてくれる。
「AKUMAはエクソシストにしか破壊できないのだよ。それが戦わなくてどうするのかね」
「やめて…っ聞いては駄目よ…!」
婦長が私を抱きしめてくれる。
「教団の為に戦いたまえ、リナリー」
「やめろよッ!」
皆が、私を守ってくれる。
守ってくれている。
"…え…して……"
あの時と同じ。
一人教団に連れて来られて、何度も逃げ出そうとしては失敗した。
最後には身動きできないよう、ベッドに拘束されて。
"気が触れてしまったか…"
"縛り付けておかないと、何をするかわからない"
"絶対死なせるな、外にも出すなよ"
手足をベッドに縛り付けて見下ろしてくる大人達は、感情のない目で私を見ていた。
家に帰りたい。
兄さんの元に帰りたい。
私の望みはそれだけなのに、そんなことも許されなくて。
"大事なエクソシストなんだ"
大事?
大事って何。
じゃあなんでこんな酷いことをするの。
私には兄さんしかいないのに。
なんで兄さんから引き離すの。
たった一人の家族と、一緒に生きることもできないの?
"え…て……おうち…かえ、して…"
私はただ、家に帰りたいだけ。
たった一人の家族と一緒にいたいだけ。
エクソシストなんてなりたくない。
世界の為になんか戦いたくない。
私に戦う理由ができるとするならば、きっとそれは──
"此処がおうちだよ"
3年ぶりだった。
その声を聞いたのは。
"に…さ…?"
"遅くなってごめんね…リナリー"
目を疑った。
ベッドの傍の椅子に腰かけて、柔らかい笑みを向けてくる。
その人はずっと私が焦がれていた人だったから。
私のたった一人の、家族。
たった一人の、誰より大切な人。
"ただいま"
まるで此処が家だと言うかのように、当たり前のようにそう口にした。
コムイ兄さん。