第78章 灰色の世界
「ラビ…それなら私も…っ」
扉に向き直るオレに、リナリーが歩み寄る。
その時。
バンッ!
あんなに固く閉ざされていたはずの扉が、勢いよく開かれた。
「っ!?」
停電して真っ暗になっていたのは、この室内だけだったらしい。
扉の向こうから入り込む強い外の光に、目が眩んで思わず目の上に手を翳す。
一体誰が───
「長官…!?」
婦長の声が上げた名は、予想外のものだった。
長官って…あのルベリエかよっ?
「……ルベリエ…」
段々と光に慣れてくる目に、眉間に力を入れながら見据える。
確かにその光の中に立っていたのは、あの中央庁のお偉い長官サマだった。
「リナリー・リー」
婦長やオレの声に反応は見せずに、鋭い目でそいつが捉えていたのは一人だけ。
「君はエクソシストだろう」
名前を呼ばれたリナリーは、微動だにしない。
「おいで」
そうルベリエが口にした途端、微かに息を呑む気配がリナリーから伝わった。
「長官…一体何を…」
「これを聞けばわかるだろう」
戸惑う婦長の言葉に、ルベリエがその襟首に飾った宝石に指先を置いた。
カチッとスイッチが入る音。
その宝石はどうやら無線機かなんからしい。
『各班班長へ!一度しか言わないのでよく聞いてくれ!』
「!…兄さん…っ」
そこから届いた声はコムイのものだった。
コムイにしては珍しい、切羽詰っているかのような鋭い口調が耳に届く。
『これより僕の指示に従い各自班員を誘導し、方舟3番ゲートからアジア支部へ避難する。第五研究所のエクソシストの安否が不明の今、我々がすべきことはイノセンスを守り全滅を回避することだ』
それって、つまり───
『この本部から撤退する!』
やっぱりな。
この対AKUMA軍事機関、エクソシスト総本部の黒の教団を捨てるってこと。
中枢である大事な本部を切り捨てるってことは、それだけ切羽詰まった緊急事態ってことだ。
…それだけレベル4のAKUMAの力は脅威だってことさ?