第78章 灰色の世界
同じようなことを以前ミランダに言われた。
"貴方も仲間でしょ…?違うの…?"
AKUMAとの戦闘から戻ってこないリナリーを助けに行こうとすれば、周りに止められて。
仲間じゃないのかと声を荒げれば、さも当たり前のようにそう返された。
…息を呑んだ。
何も言葉が出なかった。
だってオレは、その言葉にはっきりと頷けなかったから。
"ブックマン"という使命を持つオレは、上っ面は仲良くできても心の底からは寄り添えない。
ミランダも教団の人間も全部、オレにとってはログの"情報"。
だから何も答えられなくて。
…今も同じだ。
「…悪ィ…婦長、」
謝ることはできても、肯定はできない。
「…いいえ、私も叩いて悪かったわ。それだけラビに仲間を思う心があるってことでしょう?悪いことじゃない」
俯いて謝罪すれば、目の前の婦長も荒げていた声を静めた。
…仲間を思う心?
「貴方達エクソシストは、此処では特に体を張らなきゃならない存在だから。守りたいって思う気持ちが強いのもわかる。でも自分を粗末にしないで。貴方も研究室の皆も、私には変わらず同じ仲間なんだから」
守りたいと思う気持ち?
…オレは別に、そんな使命感みたいなもんは背負ってない。
教団でエクソシストになったのも、"聖戦"を記録する為だ。
ジジイに言われて、仕方なく兵士としてログに身を置いただけで…
「………」
……違う。
…昔のオレならはっきりとそう言えた。
でも今は…何よりも守りたいものがある。
「さ、手当てしましょう。問題はそれから───」
「悪い、婦長。でもオレやっぱ行くさ」
「え?」
婦長の言葉を遮って顔を上げる。
簡単に肯定はできないけど…でも、はっきりと言えることはあるから。
「この目で確かめなきゃ気が済まねぇんさ。じっとなんてしてらんねぇ。どうやってでもこの扉をこじ開ける」
「…ラビ…」
悠長にしてる暇なんてない。
一刻を争う出来事。
守りたいものがあるから、今何を優先すべきか。
それくらいオレにもわかる。
「…あんがと」
ヘラ、といつものように笑って礼を言う。
肯定はできなくても…婦長の言葉は、素直に嬉しかったからさ。