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科学班の恋【D.Gray-man】

第78章 灰色の世界



初任務で胸に怪我した時も、リーバーに連れられて医務室にやってきていた南。
婦長に怒られながら手当てされて、縮み上がってたっけ。






"婦長、なんだって?"

"うん、定期的に診断に来いって"

"…跡とか残ったりしねぇかな"

"大丈夫だよ。ちゃんと手当てしてれば傷跡も消えるって言われたから"






心配で、婦長の診断が終わるまで南のことを待っていた。
締め切ったカーテンの向こうから出てきた南は、いつもと変わらない笑顔を浮かべていて、あん時は心底ほっとした。
自分の傷は別に気になんねぇけど、南の体に傷跡なんて残させたくない。
女性だからって思いもあるけど、やっぱ…心も体も、大事にしたい人だから。



「きつくない?サイズは大丈夫だと思うけれど…」

「…あったかい。婦長の靴」



婦長に履かせてもらったナース靴を見下ろして、ぽつりとリナリーが呟く。



「履き忘れたんじゃないの。すぐヘブラスカの所に行ってイノセンスとシンクロするつもりだったから、わざと何も履かなかったの」



眉を潜めて、唇を噛み締めて。



「足あったかい……あったかいね…」



そう口にしながら零れ落ちたのは…涙だった。



「──…」



ボロボロとその頬を伝う大粒の涙に、思わず言葉を失う。



「ふ…ぅ…っ」



小さな泣き声を漏らして、リナリーの顔が婦長の胸に埋まった。



「…此処にいましょう、リナリー。きっと大丈夫よ。こんな酷い一日はすぐに終わるわ。イノセンスを体内に入れるだなんてやめて」



あやすようにリナリーの体を抱きしめる婦長の言葉は、優しくて、でもその声には揺るがない意思が見えた。
婦長達医療班は、エクソシストや怪我人の治療が専門だから。
きっと本気でリナリーの身を按じているんだろう。



「室長の気持ちもわかっているでしょう…?」

「私…っ兄さんを悲しませる気なんてなかったの…ッそんなつもりじゃ…でもどうしよう…ッ兄さん泣いてた…どうしよう…っ」



婦長の胸に顔を押し付けて、泣きじゃくるリナリー。
自分を責めるその姿は、いつもの凛とした姿からは想像できない程弱々しいものだった。

弱々しい、一人の女の子にしか見えない。

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