第77章 生と死
「ごめん…」
大きく震える声が、不意に届いた。
床についた僕の左手に重なる、ボロボロの手。
「ごめん…アレン…だすけて…」
ジョニーだった。
立ち上がれない体を引き摺って、僕の元までやってきて、その手を縋り付くように左手に重ねてくる。
「皆を助けて…たす、けて…」
満足に力も入らないのに。
その手だけは、強く僕の手の甲を握っていた。
「ごめん…ごめんなぁ……助けて…」
助けを乞う言葉と、謝罪。
そして、
「う…うぅ…ッ」
溢れるように、後から後から零れ落ちる涙。
「だすけて…」
締め付けられた。
ジョニーのその言葉に、その姿に。
誰かに思いを託すことしかできない。
誰かに頼って懇願することしかできない。
弱さと切望と葛藤と。
色々なものが混じり合って零れ落ちる涙は、とても痛かった。
「ジョニ…」
腕の中にいた南さんが、ふらりと抜け出てジョニーの傍に寄る。
「ジョニ…じゃ、ないよ…ジョニーが、悪い訳じゃない…」
その手を握りしめて、項垂れた南さんの声は震えていた。
「悪く、ない…から…」
か細く涙する声。
二人の目から零れる滴は、床に広がった血に混じって滲む。
…そうだ、悪くない。
誰一人悪くない。
南さんもジョニーも、誰にも非なんてない。
僕よりずっと長く、一緒にいたんだ。
ずっと一緒にこの教団で働いて、一緒に暮らしてたんだ。
そんな仲間の死を唐突に突き付けられて、何度も目の当たりにして。
僕が今感じている心の痛みより、きっとずっと二人の心は泣いている。
血を流してる。
「みんなってだれ?」
変わらぬ口調で問いかけてくる白いAKUMA。
まるで天使のような風貌のそれは恐らく…レベル4程のもの。
自分でそう名乗っていたし、何よりその内臓された人の魂が証拠だった。
目も当てられない程の酷い魂。
今まで確認されたAKUMAは最高でもレベル3までだった。
進化したんだ。
マービンさん達の体を食らって。