第77章 生と死
崩れ落ちるマービンさんの体。
細胞自体がウイルスに犯されて変わってしまったその体は、まるで飴細工のように簡単に赤く砕け散った。
呆気ない程のあっという間の死。
「……あ…ッ」
腕の中にいる南さんの体が、一層強く震える。
「っ!」
咄嗟に目の前の光景に釘付けになっているその目を逸らすように、南さんの顔を自分の胸に押し付けた。
「ぅぁ…あぁあ…ッ…!」
押し付けた服の隙間から、くぐもった南さんの嗚咽が漏れる。
こんなことしたって何も変わらない。
南さんの心を引き裂いた事実は。
それでも、これ以上そんな光景は見せられなかった。
見せたくなかった。
───クス…
「!?」
南さんの嗚咽の合間に、微かに笑い声のようなものが耳に届く。
聞き覚えのある、赤子のような笑い声。
咄嗟に辺りを見渡す。
───クスクス…
何処だ?
何処からしてる?
近付くその声を辿るように、目線を目の前のオブジェに向ける。
そういえばマービンさんは、何かを指差していた。
"進化した"と口にして、上にあるものを───
「…な…」
真っ赤なオブジェの先。
その真上には、まるで女性のような形を成したものがあった。
大きく仰け反り、その腹部を突き出すような格好で。
「なんだ…あれ…」
その腹部は何かが入っていたのか、ぽっこりと膨れていて、まるで卵の殻が破けたかのように大きく欠けて空いていた。
中には何もない。
空っぽの空洞。
───クス…
微かな笑い声が途切れる。
仰け反った女性のような形のものの後ろから、伸びる白い小さな手。
その手が殻の破片に添えられて。
覗き出すようにして現れた生き物。
白い羽。
白くて細い手足。
頭の上には光輝く二つの輪。
赤子のような老人のような顔立ちを持った、
奇妙な生き物。
「──ぼく」
それはゆっくりと口を開くと。
「れべるふぉお」
確かに人の言葉を発した。
人成らざる姿で。