第2章 私の周りのひと。
見なくても声でわかる。
「ちょっかいなら、余所でやってくれませんか」
振り返りながら言えば案の定、ぱっと目立つオレンジ色の赤髪が見えた。
「ちょっかいなんて言い方悪いな。心配してるんさー」
当たり前のように隣にご飯のトレイを置いて、座ってくるのは貴重なエクソシストの一人。
そして"ブックマンJr."という、他のエクソシストとは少し違う立場にいる青年。
名前はラビ。
いつもの黒いヘアバンドに黒いカーフピアス姿で、無造作に散らせた赤髪がふわふわと揺れている。
団服姿じゃなくラフな私服姿だってことは、今日は非番なのかな。
「で、なーにそんなに落ち込んでんさ?」
年下だけど嫌味のない屈託なさに、ラビとは自然と話が合った。
元々読書好きだったし仕事でもよく使うから、休日や残業で教団の書庫室に足を運ぶことはよくあったし。
同じく書庫に入り浸ってたラビと、其処でよく話すようになった。
ラビ曰く女性でこんなに難しい話に付いていけたのは初めてだとか、なんとか。
そりゃまぁ、一応此処の科学班の一員ですから。
専門分野ならそれなりに話せます。
「別に、なんでもないよ。仕事疲れ」
ハンバーグを口にするラビを横目で見ながら、適当にあしらう。
誰にも私がリーバー班長を好きなことは言ってない。
命を張ってるこんな職場で色恋沙汰なんて言う気もない。
大体、こんな暗い自分を曝け出したくないし。
「科学班は相変わらず仕事中毒だよなー」
「違います。中毒じゃなくて仕方なくです。後から後から、仕事が入ってくるから…」
「じゃあ休めばいいじゃんか。有休とか取って」
「そんなことしてたら、仕事が回らなくなるでしょ。他の皆に迷惑かけられないし」
「はー…南は優し過ぎだよな」
「どこが。こんなの普通だよ」
有休は有休にあってならず。
当たり前のことを当たり前に言えば、黒い眼帯で隠していて片方しか見えない翡翠色の目は丸くなる。
そして意味深に目を細めて笑った。
なんですか。