第77章 生と死

「しまっ…！」



リーバー班長の口がその言葉を最後まで言い終える前に、ジョニーを襲った赤黒い二本の奇妙な腕は、結界を突き破りうねりながら飛び出してきた。



ドッ



鈍い音。



「…ッ…！」



駆け寄ろうとしていたハスキンさんの動きが止まる。






後ろから胸に突き刺さって飛び出した、AKUMAの赤黒い腕によって。






「ハスキンさん…！」

「ハスキン！」



悲鳴を上げる間もなく。
胸に突き刺さった赤黒い腕は、ハスキンさんの体を軽々と持ち上げると大きく振り被った。

ズダンッ！と床に叩き付けられるハスキンさんの体。
それはまるで玩具のように、呆気なく。



「ハスキンさ…ッ！？」



強く叩き付けられた体は、ピクリとも動かない。
胸を貫通した体から、じわじわと広がっていく赤い水溜り。

え。

なんで。

ちょっと待って。



「ぅ、嘘…っ」



あまりに一瞬のことで、頭が追い付かない。

嘘、嘘。

ちょっと待って。

待ってよ。



「ハスキ、さ…ッ」

「が…っ！」

「駄目だ、もうバッテリーが…ッぅぐ…！」



呼ぼうとした声は、周りの悲鳴に掻き消された。
見えたのは、まるで鋭い鞭のように素早く飛躍しうねる、赤黒い腕。
その腕が辺りを舞うと同時に、ぱっと飛び散る赤。

赤。



「ロブさ…ッ…バク支部ちょ…！」



ロブさんの体が崩れ落ちる。
バク支部長の体が、叩き付けられるのが見えた。



「南！逃げ、ろ…ッ！」

「リーバー班長…ッ！」



リーバー班長の首を鷲掴んで、その体を宙に持ち上げているAKUMAの腕。
メキメキと嫌な音がする。

駄目、やめて。

〝死〟

一気に視界中に広がった赤に、強制的に突き付けられる現実。
急なこと過ぎて、頭が整理に追いついていない。

なんで。

ハスキンさんが。
ロブさんが。
バク支部長が。

なんで皆、動かないの。



「ぁ、ぅ…！」



くぐもった班長の悲鳴が、耳に届く。



駄目。

だめ。

班長を助けないと。

リーバー班長を。