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科学班の恋【D.Gray-man】

第76章 終わりの始まり



アレンから南の体を受け渡される。
背中と膝に回して抱き上げた体は、薬で幼児化していた時と同じ。
俺には酷く軽くて、小さな存在だった。

触れることができた。
今は俺の腕の中にいる。
なのに、そんな南の姿は一目見てわかる程に酷い有り様だった。

真っ先に目に飛び込んでくる、真っ赤に染まった腹部は所々服が破けて、その傷の酷さを主張していた。
焦げ付いた手も、涙の跡がこびり付いた頬も。
霞むように力なく見返してくる目も、その覚束無い声も。



「…ッ」



歯を食い縛る。
南を抱いた腕が力みそうになって、咄嗟に気持ちを押し込めた。

無茶し過ぎだ。

こんなになってまで、タップを庇ったりAKUMAに抗ったり。
南の性格を知っているから、そう咎めることもできなくて…でもよくやったと褒めることもできなかった。



「…はんちょ…?」



黙り込んだ俺を見上げる南が、その覚束無い声で呼ぶ。

…ああ、くそ。
駄目だ。



「………」

「は、んちょう?」



腕の中で抱き込むようにして、南との距離を縮める。
すぐ傍にある南の顔に、どこか戸惑うような声が耳に届いた。

気持ちは言葉にならなくて。
行動でしか伝えられない。
でも今の南を強く抱きしめることもできない。



「……南」

「…は、い」



抱き込んだままその名を呼べば、覚束無くとも応えてくる。
ただそれだけの返答なのに。
確かにこの腕の中に南がいるんだと、生きているんだと実感して。

肌で、耳で、目で、南を感じながら深く息を吸う。
……そうすると少しだけ、落ち着くことができた。

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