第76章 終わりの始まり
寝かされた体は逃げ出す素振りがない。
その腹部も赤く染まっているように見えた。
まさか…怪我してるのか?
「クソ…っ南に手ぇ出すな…ッ!」
「おほ?なんだお前さん、そんな状態で動けるのかい」
横には同じく倒れ込んでいるタップの姿があった。
その足先はAKUMAにやられたのか、見るも無残に真っ赤に染まっている。
「オレ達に何しやがる気だ…!」
「おーおー、威勢がいいねェ。お前さんのミソの出来は良さそうだし。それに免じて、教えてあげよう」
「ッ…!」
「お前さん達を材料に"卵"の番をする人形、"守化縷"を造るんだよ。この間お前さん達のとこのエクソシストが沢山殺した所為で、数が足らなくてねェ」
南の頭から手を離して笑う髑髏の言葉に、咄嗟に耳を澄ます。
聞こえてきたその言葉は、この場にいる部下達の処遇と合致した。
だからすぐには殺さなかったのか。
スカルとかいうその人形の材料にする為に。
「オレらを、材料、だと…ッ」
「お前さんは良い人形になってくれそうだ。おめでとう」
「ッひ、嫌…っ」
苦虫を噛み潰したようなタップの言葉に構わず、髑髏の手は再び南の頭に翳された。
AKUMAに頭を潰されないにしても、何かされることは明白。
「南…っ!」
「は、班長ッ」
「駄目ですッ」
「放せ!」
今度こそ抱えていた機材を放って、その場から飛び出そうとした俺をロブ達が押さえ付けた。
「せめて結界装置が出来てから…ッ」
「じゃないとやられるだけですッ」
「それじゃ間に合わねぇだろ!」
今此処で、俺の目の前で、南が何かされようとしているのに。
命に順番なんてつけられない。
でも無理だ。
ただ黙ってそれを見ているなんて。
俺が耐えられない。
「"オン"」
───ボッ…!
そんな押し問答を繰り返していたその場の空気を止めたのは、突如勢いよく上がる炎だった。
赤と白の眩い光が目に飛び込んできて、思わず動きを止めて凝視する。
その光の先には───
「…タップ…?」
南を髑髏の手から守ろうとしていた、あのタップの姿があった。