第75章 無題Ⅰ
「方舟、中々良い乗り心地だぜェ坊主」
霞んだ私の目では、その動きを捉えられなかった。
傍で聞こえた声。
いつの間に其処に降り立ったのか。
「…!」
私と同様、驚いた顔をアレンが目の前の"彼ら"に向ける。
AKUMAの卵の先端に立つアレンが見る先は。
同様にAKUMAの卵に足をかけ、各々のイノセンスを手に立つ姿。
「さァて、どうされたいか言ってみろ。AKUMA共?」
挑発するように低く掠れた声で笑う、マスクを付けたその人は確か───…
「……ソカロ、元帥…」
四人の元帥のうちの一人。
…それだけじゃなく。
「師匠…!」
アレンが口にしたその人も、そして残りの元帥二人も。
クロス元帥。
クラウド元帥。
ティエドール元帥。
全員がその場に立っていた。
よかった、間に合った。
本当に来てくれた。
「………」
アレンの声に無言でクロス元帥の目が向く。
「…守るならしっかり守れ、馬鹿弟子が」
その目は一瞬私を見て、すぐに逸らされた。
発された声はどことなく冷たい。
「AKUMA共は俺達で片付ける。お前は無事な科学班連中を守れ」
「っ…ししょ」
「行け、さっさと。じゃないとお前の脳天に先にぶち込むぞ」
じゃこん、と重い機械音を立ててクロス元帥が迷いなくアレンに向けたのは、装備型イノセンスである大きな銃。
有無言わさないその圧に、アレンは言葉を飲み込んだ。