第75章 無題Ⅰ
「…わかりました」
静かにそう応えながら、アレンの私を抱く腕に僅かに力がこもる。
「南さん、ごめん。少し揺れます」
「…ん。大丈夫」
ダンッと勢いを付けてアレンがAKUMAの卵の上から跳ぶ。
元帥達を越えて向かった先は、ブックマンを守るように結界を張って盾になっているリーバー班長達の所だった。
ガッ…!
「アレン…!」
飛び込み様、アレンの蹴りが結界を破ろうとしていたAKUMAを弾き飛ばす。
「リーバーさん、南さんを…!」
同時にふっと消える結界のシールド。
壁にめり込んだブックマンを助け出すマービンさん達を背後に、こっちに駆け寄ってくる高い身長が見える。
「南…!」
伸ばされる手。
私を呼ぶ声もその顔も、普段見たことのない程に切羽詰まった様子を見せていた。
「…リーバー、班長…」
アレンの腕から、リーバー班長に移される体。
血は見えなくともボロボロの白衣姿で、それでもその腕は私をしっかりと抱いてくれた。
「…ッ」
「…はんちょ…?」
抱き上げる腕に力がこもる。
何も言わずに、私を薄いグレーの目に映して。
その顔は痛々しい程に歪んでいた。