第75章 無題Ⅰ
「連れていかせるものか!」
「科学班をナメんじゃねぇぞ!」
荒げるバク支部長の声に重なるように聞こえたのは、あの人の声だった。
リーバー班長。
「ぁ…」
見えたのは、ブックマンを守るように同じように即席の結界装置を抱えて盾となっている姿。
その傍にはロブさんやマービンさんの姿も見えた。
よかった、無事だった。
ハスキンさんもいる。
「皆…」
その体に血の跡は見えない。
きっと怪我はしていない。
AKUMAにやられていない。
そのことに酷く安心した。
よかった。
本当によかった…っ
「起きろウォーカー!二人共拉致られるぞ!」
「アレン起きて!南が…ッ!」
バク支部長とジョニーの声が届く。
だけど私の隣でAKUMAに抱えられているアレンは、ぴくりとも動かない。
項垂れたまま、その顔は見えない。
結界装置はAKUMAの動きを封じているけど、それも今だけ。
大量にAKUMAがいるこの場で、別のAKUMA達がバク支部長達を襲ったら終わりだ。
「アレン…」
駄目、そんなの。
そしたら今度こそ、ジョニーもやられてしまうかもしれない。
「アレ…ン、」
AKUMAの腕の中から手を伸ばす。
血が足りなくて、上手く力が入らない。
アレン
起きて、アレン
頼ってばかりでごめん
一人で沢山背負わせてごめん
でもそんな所で寝てたら駄目だよ
「約束…した、でしょ」
来年のクリスマスは、ちゃんとお祝いするって
アレンの誕生日
約束したから
だから
「起きて…アレン…っ」
「起きてッ!アレェエン!!!」
ジョニーの声が被さる。
泣き叫ぶような、そんな声。
瞬間、
───ド…ッ!
白いマントがAKUMA達を貫いた。