第75章 無題Ⅰ
「つまんない言葉だねェ。10点」
溜息混じりにAKUMAが漏らした言葉は、そんなものだった。
ミシッと顎を掴まれた手に力がこもる。
鋭い爪を私の唇に寄せて、剥き出しの歯でニィとAKUMAは笑った。
「じゃ、そのお口ともサヨナラだ」
爪が唇に触れる。
見えなかったけれど確かに感じた。
小さな痛みと、じわりと滲む鉄の味。
…ああ、もっと言いたかったこと色々あったな。
もっと呼びたかった名前があった。
あれは───…
バンッ…!
その音が耳に届くと同時に、眩い光に視界が包まれた。
「な…んだ?」
「動けな…ッ」
アレンを抱えていたAKUMA達の動きが止まる。
「これは…結界、か…ッ」
私の口に爪を当てたまま、目の前のAKUMAも同様にギシリと動きが止まる。
眩い光はAKUMA達を囲って、まるで縛り付けるように光り輝いていた。
この光…ファインダーの結界装置?
「椎名!ウォーカー!」
「南…っ!」
───あ。
この声。
光の放たれている先を見上げる。
そこは研究広間の壁に設置された通路。
聞こえた声は、確かに知っている声だった。
私に"逃げろ"と口にしたその人のものと…もう一つは。
「ジョニ…ッ」
光の先。
多分即席で作ったのか。
結界装置とは形が違う、だけど確かにそれと同じシールドを放出している機械を手に構えていたのはバク支部長。
その隣に見えたのは、銃を手にしたレニー支部長と─…ジョニーの姿だった。
お腹に白衣を巻き付けて、ふらふらになりながらも立っている。
それは紛れもない、ジョニーの姿だった。
よかった。
生きてたんだ、ジョニー。
助かってたんだ。
リーバー班長と同じ。
その姿が見当たらなかったのは、無事に隠れていたからなんだ。