第75章 無題Ⅰ
「丁度いいわ、こいつ連れていく」
恐る恐る目を開けば、見えたのは両手の鞭を再び人の手へと変えながら、アレンを冷たい目で見下ろすノアの姿だった。
連れていくって…まさか敵の所に…ッ?
「14番目が残した奏者の資格…主人の前に突き出しましょう」
「はっ…ではこの人間は?」
「…こいつも守化縷として役に立つ。連れていけ」
「ははっ」
一瞬合った金色の目は、私を冷たく見据えてすぐに逸らされた。
「"卵"も回収した。退くぞ」
ノアのその言葉に、はっとAKUMAの卵が置いてあった広間の中心に目を向ければ。
その真下には出入口を塞いでいる謎の黒い壁と同じような黒い板が広がっていて、卵の先端だけ残してずぶずぶと飲み込んでいた。
やっぱりあの黒い壁は、敵の方舟だったんだ。
「残った人間は殺せ」
「っ!?やめて…ッ!」
無情な支持をAKUMAに出して、卵を飲み込んでいる黒い板へとトプンと落ちていくノア。
咄嗟に声を張り上げる私の体を、AKUMAが羽交い絞めに抱え上げる。
傍では意識を失ったままのアレンを、同じに二体のAKUMAが両脇から支え上げた。
駄目だ。
このままじゃ私もアレンも、元帥達が到着する前に連れていかれてしまう。