第75章 無題Ⅰ
AKUMAの腕の中から、確かに見えたその人の姿。
こっちに銃を構えて睨んだまま、真っ直ぐに立っている白衣姿。
その体のどこにも赤い血は付いていない。
姿が見当たらなかったのは、AKUMAにやられてなかったからなんだ。
よかった…ッ
「あイタ★ったた…やれやれ…誰だい、お前さん」
だけど目の前の骸骨は脳天に銃弾を喰らったはずなのに、軽く頭を擦りながら平気な様子で班長に目を向けた。
「科学班班長のリーバー・ウェンハムだ。出来の良い脳ミソが欲しいんなら、俺をやれよ」
「っ…だ、だめ…ッ班長、駄目!」
思いもかけない班長の言葉に、咄嗟に声を上げる。
リーバー班長は人間。
AKUMAには敵わない。
そんなことしたら、タップと同じにやられてしまう…!
「タップ…こんな姿に…ッ」
涙でぼやけた視界でも、なんとか確認できたリーバー班長の姿。
微かに震えている語尾。
泣いていた。
しかと骸骨を睨み付けたまま、その目には涙が溢れていた。
誰よりも厳しくて、本当は誰よりも優しい人だから。
「俺の部下をテメェらにやるなんざ冗談じゃねぇ!南を離せ…!」
「おほ、"班長"!それは大歓迎だねェ!」
一瞬だった。
助走もつけずに、骸骨が目にも止まらぬ速さで班長の前に飛び出す。
ぴたりと、その手を班長の額に当てて。
「だ…ッ班長!」
駄目!
AKUMAの腕の中で暴れる。
羽交い絞めに抑え込まれて、抜け出せない。
駄目、やめて。
班長まであんな姿にしないで…!
「じゃあお前、二体目だ」
「ッ!」
「やめて…!!!」
ぐっと、班長が目を瞑って歯を食い縛るのと。
私の叫びと。
骸骨の無情な声。
それが全て一瞬で重なった時。
───…ブッ…!
その"衝撃"は起きた。