第75章 無題Ⅰ
「た…タップ…皆、が…ッ」
やっと声を発せられた時には、情けなくも大きく震えていた。
「く、そ…ッ何、しやがるアイツら…ッ」
どうしよう。
どうしよう。
科学班の皆が。
「助け…っ外、知らせ、ないと…ッ皆が、殺される…!」
必死に腹部を押さえたまま、辺りを見渡す。
其処ら中に浮いている夥しい数のAKUMA。
その中心部で淡々と非道な行いを見下ろしている、一体のノア。
逃げる隙なんて何処にもない。
「落ち着け、南…っアレンの左眼が、あるだろ…ッ」
「え…あ…っ」
タップのその言葉にはっとする。
そうだ、アレン。
アレンのあの左眼なら、AKUMAを探知できる。
こんなに大量のAKUMAが一気に本部内に現れたなら、絶対に気付くはず。
「あいつなら、きっと助けに来てくれる…っ」
「う、うん…っでも、皆が…ッ」
それでもこうして待つ間にも、研究員の命は潰されていってる。
早く、早く。
お願い、アレン。
早く気付いて。
「───さぁて、」
ふっと、影がかかる。
「──!」
いつの間に傍に来ていたのか。
研究員達を品定めしている骸骨とは別にもう一体、それは私の前で顔を覗き込むように見下ろしていた。
見上げた先には生々しい骸骨の頭があって、そのぽっかりと空いた二つの黒い空洞は、目なんてないのに。
確かに、目が合った。
「おや、雌型なんて珍しいね」
軽く首を傾げながら、骸骨の手が額に伸びる。
「お前さんのミソの出来はどうかな」
「ひ…っ」
ポゥ、と額に翳された掌が光る。
この後、私も頭を果物のように潰されるのか。
そう悟ると情けない悲鳴しか零すことができなかった。