第75章 無題Ⅰ
「此処の研究員共よ。あまり時間ないから早くして」
「ははっ」
「仰せつけ通りに」
ノアの声に頭を下げた骸骨の生き物が、並ばされた研究員の皆に歩み寄る。
何、する気?
「どれどれ、出来の良い脳ミソはいるかな?」
端の研究員の一人に寄ると、その骸骨は徐に頭に手を翳した。
ポゥ、とその掌が光る。
「ん~」
まるで頭の中を探っているかのように、骸骨が渋る声を漏らした。
そして。
「こいつは駄目だね」
持っていた筆で徐に、研究員の顔に大きくバツ印を書きつけた。
「バツしたのは要らないよ」
「え…っな───」
意味がわからず困惑気味に声を上げる研究員に、一体のAKUMAが歩み寄る。
その機械的な足を頭の上に掲げて───
「ギャ…ッ!」
ぐしゃっと。
頭部を踏み潰した。
「ッ!?」
唐突だった。
あまりに唐突で突然で、息を呑むことしかできなかった。
「はい、次。ん~」
驚き動揺する研究員達を気に掛けることなく、骸骨が次の研究員の頭に手を翳す。
「これも駄目だね」
「…っ!やめ───ギャア…!」
ぐしゃっ
「はい次」
「グェ…!」
ぐしゃっ
「次」
「ぎ…!」
ぐしゃっ
「はいはい次」
「ゲッ!」
ぐしゃっ
あまりの光景に、言葉も出ない。
次々と品定めするかのように、研究員の顔に筆でバツ印を付けていく骸骨。
それに従って、AKUMAが順番にその頭を踏み潰していく。
まるで腐った果物のように。
潰れた頭から飛び散る濁った赤。
最期の悲鳴はあまりにも短くて呆気ない。
酷い。
人を人として扱っていない、あまりに非道な行為に息が詰まった。
「ッ…」
同時にカタカタと体が震え出す。
間違いようのない、それは"死"への恐怖。
順番に研究員を品定めしている骸骨は、やがて私達の元へもやって来る。
それを嫌という程悟ったから。