第74章 本部襲撃
『室長!マリとミランダが到着しました!』
『…すぐ行く』
沈黙を破ったのは、慌ただしい第三者の声だった。
再び冷静さを取り戻したコムイの声とその空気に、一気に現実に引き戻される。
「ッ待てコムイ!オレも行く!!」
イノセンスが壊れているオレは、リナリーみたいに戦える僅かな希望もない。
それでもこんな所でじっとなんてしてられなかった。
「南を助けねぇと…ッ!行かせてくれ!」
『…彼女達は元帥達がちゃんと助ける。君は今は自分の命を大事にしてくれ』
「ふざけんなッ!お前ならわかんだろ!」
そうやって、大事な妹を守ろうとしてるお前なら。
自分より何より、大事なんだろ。
譲れないんだろ。
室長としての立場で見るなら、エクソシストとして少しでも戦える可能性のあるリナリーを、こうして守るという選択肢は普通取らない。
それでも戦場に向かわせないのは、リナリーに対してそれだけの"思い"があるからだ。
本当はきっと、戦わせたくない。
それだけ大事なんだろ。
リナリーの為に室長になってまで、教団の中に踏み込んだお前だ。
それだけ強い思いを持ってんだろ。
オレだって同じなんさ。
「駄目でしたじゃ洒落になんねぇんだよ…!救えませんでしたなんて言ってみろ!殴るだけじゃ済まさねぇからな!!」
例えAKUMAと戦う術がなくたって、こんな所で無事を祈り続けるくらいなら南の傍にいたい。
この目でちゃんと南の無事を確かめたい。
無力な者は、ただ見ていることしかできない。
無事を祈って、待つことしかできない。
手が届かない歯痒い思い。
……こんな思いを、南はずっとしてたのか。
「守れなくたって傍にいたいんだよ…ッ此処でただ待つだけなんて冗談じゃねぇ!」
オレには無理だ。