第74章 本部襲撃
「ヘブラスカは覚悟が必要だって言ってた…っイノセンスはきっと私を試そうとしてる!命を懸ける覚悟を私が示せば、きっとシンクロできるわ!」
強くコムイに否定されても、リナリーの意思は強かった。
「ううん、絶対してみせる。私…私はきっと、ホームの皆や兄さんを守れるなら───」
『"死んでもいい"って?』
けれどその意志の強い言葉を止めたのは、静かに響くコムイの淡々とした言葉だった。
『皆や僕の為なら、自分の命はどうなってもいいのか?』
「ち…ちが…私は…」
息を呑むように止まる、リナリーの言葉。
ショックを受けたように、覚束無い声は言葉にならない。
不意にその目元に、透明な滴が浮かぶ。
「兄さん、私は───」
『此処にいてくれ。お願いだから…』
泣いているのはリナリーだった。
リナリーだったのに。
その扉の向こうから聞こえたか細い声も、まるで泣いているような声だった。
初めて聞いた、コムイの弱々しい痛んだ声。
「…兄さ…ん…」
『………』
リナリーが自分の命を無闇に軽視なんてしてないこと、きっとコムイは気付いてる。
実の妹なんだ、その思いを知らない訳がない。
リナリーにとっての"世界"はこの地球上の人々じゃない。
この教団にいる、彼女が"ホーム"と呼ぶ中の人々で成り立っている。
そのホームの人々を失うことは、リナリーにとって"世界"を失うことと同じ。
そんな妹の強い思いを、兄であるコムイが知らないはずがない。
だから自分の体を張ってでも"世界"を救おうとする。
そんなリナリーの思いを知ってて、それでもこうしてリナリーを止める理由なんて一つ。
"エクソシスト"としてじゃなく"妹"として思う気持ちがあるからだ。