第74章 本部襲撃
すぐ近くに、南の存在はあるのに。
その命が危険に曝されてるのに。
今のオレが行ったって、足手纏いなだけなのはわかってる。
南はそんな弱い自分を知ってたから、足手纏いにならないよう自分ができることを精一杯やってた。
自分の弱さを見つめて、自分にできることを頑張っていた。
…オレには無理だ。
南みたいに耐えて、待つことなんてできない。
オレはそんな強い心持ってない。
「頼むから此処を開けろ…!」
『…すまない』
「ッ…!」
扉から遠ざかるコムイの声と気配。
駄目だ、行くな。
オレはどうせ傍観者の立場なんさ、本当の意味での教団の仲間じゃない。
オレの命なんてどうでもいいだろ、此処を開けろ…!
「ッのヤロ…!」
ガンッ!
殴り付けた扉が軋む。
拳は鈍い痛みが走って、それでも扉の側面は凹みもしなかった。
突き付けられるようだった。
イノセンスがないだけで、ここまで無力になる自分を。
「ラビ、手が…っ」
「手なんてどうでもいいさ…ッ」
扉に拳を当てたまま項垂れるオレに、気遣う声でリナリーが拳に触れてくる。
出血でもしたのか。
でも今はそんなリナリーに構う余裕は、オレにはなかった。
こんなの単なる掠り傷だ。
すぐに消える小さなもの。
南を失う痛みに比べたら。
デンケ村でAKUMAに心臓を刺されて、失ってしまったかもしれないと思った南の命。
あの時オレの世界は一瞬だけど、全てが止まった。
音も色も何もかも届かなくなって、世界は灰色になった。
「…ッ…!」
あんな思いはもう嫌だ。
まだ死んだと決まった訳じゃない。
アレンが助け出してくれているかもしれない。
それでも胸はざわざわと嫌に騒ぐ。
いつもそう。
オレの嫌な予感は、当たることが多かった。
…当たるなよ、今日ばっかりは。
「…南…ッ」
頼むから。