第74章 本部襲撃
「ヘブラスカの所へ行かせて兄さん!」
唐突に響いた声は、オレの隣からだった。
「私なら…っイノセンスとシンクロできれば戦えるかもしれない…!」
『どうシンクロするつもりだい?装備するだけじゃ君のシンクロ率は10%以下だっただろう』
扉に手をかけて呼びかけるリナリーに、返すコムイの声は冷静だった。
いつものシスコン具合なんて微塵も感じさせない程。
リナリーがエレベーターを探してたのは、ヘブラスカの所に行く気だったからか。
ヘブラスカに預けてある自分のイノセンスを、きっと取りに行く気だったんだろう。
オレやユウと違って、イノセンスが壊れた訳じゃないリナリーは、確かにそれを装備すればAKUMAと戦えるかもしれない。
でもそのシンクロ率はコムイの言う通り、中国での激しいAKUMAとの戦闘で最低まで落ちていた。
そんな状態で装備しても、AKUMAに到底勝てるとは思えない。
『それに───』
「昔…っ見た実験…っ!」
『…何?』
「え…エクソシストを作る実験…あったでしょ…」
リナリーの声が急に萎んで、震えるものに変わる。
「ヘブラスカに…体内にイノセンスを入れてもらうの。あの時は適合者じゃない人達だったから…でも私ならイノセンスに応えられるかもしれない…!」
『ッ馬鹿なことを言うな!それでシンクロできるという保証はどこにもない!失敗してイノセンスが暴走する可能性だってある!』
その言葉に忽ち、扉の向こうのコムイの声が荒いものに変わった。
〝使徒を作る実験〟
それはオレもブックマンとして、教団の過去の記録を見て知っていた。
不適合者の体内にイノセンスを無理矢理入れ込んで、何人もの咎落ちという死人を作り出したえげつない実験。
コムイが室長になってからは、その実験は凍結された。
それだけ暗く、人の命を雑に扱ってきた実験だった。
確かにリナリーはイノセンス適合者だけど、コムイの言う通り今のシンクロ率なら咎落ちになる可能性だってある。
それをコムイが認めるはずがない。