第73章 あくまが来た日
「思いっきり飲んだくれてんな、クロス元帥…」
「うわぁ…あの警備員、元帥の世話係?大変そー…」
覗き込んでいたタップとジョニーが、顔色悪く呟く。
どうやら見る限り、高級酒を求めるクロス元帥が横暴なことを世話係の警備員さんに押し付けているらしい。
一緒にお酒飲んだ時は優しかったけど……同性には厳しいんだな、クロス元帥って…。
「何故私がお前と酒を飲まねばならんのだ」
「俺が女と飲むのが大好きだから」
嫌な顔して呟くクラウド元帥に、遠慮なくその手で金色の彼女の綺麗な髪を一房持ち上げながらクロス元帥が顔を近付ける。
「4年ぶりだろ?相変わらず良い女だな、クラウド」
「お前は相変わらずどうしようもない」
そんなクロス元帥に目も向けず、冷たい言葉を投げかけるクラウド元帥は手馴れた様子だった。
だよね、会う度にクロス元帥、クラウド元帥に言い寄ってた気がするし…確か。
「───ん?」
そんなことを思いながら覗いていると、不意にこっちを向いたクロス元帥と目が合った。
わ、流石元帥。
気配で気付かれたのかな。
「お、南じゃねぇか。いい所に来たな、こっちに来いよ」
眼孔鋭い目を持っているけど、ぱっと向けてくれたのは笑顔。
お酒が入ってる所為もあるのか、そのフランクさに一瞬緊張で強張った体はすぐに力が抜けた。
…ここ最近、クロス元帥とは色んな意味で近付けた気がするからかも…。
「酒の酌の約束、しただろ」
「あ…はい。でも───」
「駄目っすよ元帥!オレら今仕事中なんで」
「南との酒はまた今度にして下さい」
手招きするクロス元帥にどう断ろうかと思っていると、左右からタップとジョニーがきっぱりとその断りを入れてくれた。
「あん?いいだろ一人くらい欠けたって。あの番犬班長に伝えとけ、南は俺の所で助手やってるからってな。南、ほら来い」
「ええと…」
「それ助手なんて言いませんから!」
「駄目です!南、行くぞっ」
「あ、うんっ」
酒瓶を掲げて誘ってくるクロス元帥には申し訳ないけど、強く二人が言い返してくれたお陰で仕事をサボらずには済みそうだった。
今度お酌しますから、すみませんクロス元帥。