第73章 あくまが来た日
───その日は、いつもと変わらない一日だった。
「ジョニー、大丈夫?私一つ持とうか?」
「大丈夫だって!もう貧血は治ったから」
「とか言いつつ、またコロッと倒れんだろ?オレが持ってやるよ」
「あ、タップっ」
AKUMAの卵や方舟の解析で、相変わらず忙しい毎日。
仕事はキツいけど、リナリー達も無事退院して相変わらず中央庁や他支部の人が大勢いるこの教団内は、活気付いていた。
今日も今日とて給料にもならない残業の最中。
ジョニーとタップと一緒に、必要な機材を両手に抱えて研究広間に向かっていた。
つい先日貧血で倒れたばかりのジョニーを気遣えば、隣にいたタップがひょいっとその細い腕の中から機材を一つ取り上げる。
「ごめん、タップ」
「いいってことよ、これくらい。南の分も運んでやろうか」
「いいよ。どうせ貸しだって言って、後でお菓子とか奢らされるだろうし」
「ははっバレてらー」
ジョニーとタップとは同期だから、こうして忙しく仕事をしてても気が楽で助かる。
そんな二人と軽い雑談をしながら、広い教団の廊下を歩いていると。
『なんだこのシケた酒はーッ!!!』
ガチャン!と何かが割れるような音と共に、罵声が響いた。
…廊下の奥の扉の向こうから。
「あの声って…」
「クロス元帥?」
「ぅぇ…嫌な予感」
思わず三人で顔を見合わせて、機材を抱えたままこっそりドアに近付いてその隙間から中を覗く。
タップだけは顔を青くしてたけど。
「ですから長官から、元帥に掛かる経費は節制せよとキツく言われてまして…っ」
「こんな安モン飲めるか!テメェら俺の世話係だろーが、ロマネ・コンティ自腹切ってでも買ってこいや!」
「元帥…それは高過ぎます…!」
「我々の給金ではちょっと…っ」
部屋の中は、それはそれは高級感溢れる内装だった。
厚手の絨毯に煌びやかなシャンデリア。
その部屋の中央に置かれた大きな高級ソファに座っているのは…教団で偉い元帥が二人。
クロス元帥とクラウド元帥。
うわぁ…クラウド元帥は美人だからなぁ、二人が並んで座ってると映える……………ってなんで元帥の前で警備員さんが土下座してるんだろう。