第73章 あくまが来た日
「退院、おめでとうっ」
「南さん……はい、ありがとうございます」
ぎゅっとアレンの手を握って言えば、きょとんと丸くなった目はふと笑ってくれた。
その笑顔を見るとちょっとほっとする。
話を逸らせたからじゃなくて…最近、アレンのことが気掛かりだったから。
敵側の方舟を操れたアレンは中央庁から色々と目を付けられてるらしく、色々と質問責めにあっているらしい。
その証拠に───
「あ。もしかして貴方が…アレンの監視役っていう…?」
「ええ。ハワード・リンク監査官と申します」
アレンの傍にぴったりと付いて立つ、金髪のキリッとした目つきの男性に気付く。
リーバー班長から聞いてたけど、会うのは初めてだった。
中央庁からアレンの監視役でやって来た人。
ハワード・リンクさん。
「以後お見知りおきを」
「あ、こちらこそ」
片手を差し出されて、アレンから手を離して頭を下げつつその手を握り返す。
「オレまだ南堪能し終えてねぇんだけどっ」
「堪能って卑猥な言い方やめてくれませんか、エロ兎さん」
「エロうさ…っ?アレン最近オレへの風当たり強くね!?」
「情報によると、科学班である貴女はアレン・ウォーカーと共に前に任務に出たことがあるようですね」
「はぁ、まぁ」
ラビとアレンの声を背後に、握手したままのリンクさんがずいっと顔を近付けてくる。
え、何急に。
「そこで何か不可解な彼の行動など見たりはしませんでしたか?」
「不可解な行動…?」
「あっリンク!南さんにまで取り調べするのはやめて下さい!」
「南は関係ねぇだろ!やるならアレンだけにしろって!」
「わっ」
首を傾げていると、アレンが私とリンクさんの間に体を割り込ませてきた。
同時にラビに腕を引っ張られて、その高い背中に隠される。