第73章 あくまが来た日
「バク様はっ!リナリー様のご容体が心配で居ても立っても居られず!なのに室長殿に病室に近付くことすら許してもらえず!拗ねてらっしゃるのですーッッ!!!」
何その幼稚な理由!?
というか近いから!
ウォンさん、その滝のように流れる涙が私の顔にかかってるから!
「あー、ハイハイハイ。なんスかその理由…」
疲れた溜息をついて、リーバー班長が私とウォンさんの間に体を割り込ませる。
「というかもうすぐリナリーも退院しますよ。さっさと顔見に行ったらどうですか」
リーバー班長の言う通り。
ラビ達は今日退院だって聞いてたし、それならリナリー達も今週中にはきっと退院できる。
「退院できれば見られるかもしれんが、まだ現実退院はしてないだろう…!いいではないか、それまでは此処にいたって!仕事をして悲しみを忘れたいだけだ!」
仕事って。
だから邪魔してるだけですってそれ。
おいおいとウォンさんと同じく悔し涙を流すバク支部長を前に、私と班長は深々と溜息をついた。
「あー…疲れる…」
「…お疲れ様です」
「南もな…」
私達って科学班でしたよね。
科学班の仕事って物事や現象の解明や解析でしたよね。
……決して、アジア支部長のお守りじゃなかったはず。
本当、疲れるなぁ…。
「───ほら支部長、元気出して。なんなら私が今日お見舞いに行く際に、リナリーに伝言でもしてあげますから」
「ほ、本当か椎名!」
「それくらいしかできませんけど…」
なんとかバク支部長を連れて、方舟のゲートを通って教団本部に戻る。
思い付いた提案を口にすれば、即座に喰い付かれた。
「ならばこれを渡してくれ!」
「わぷっ」
ばふっと押し付けられたのは、花粉の香り強い大きな花束。
う、埋もれる顔が…っ
「それとこれとこれと…っ」
「ちょ、ちょっと待って支部ちょ…ッ」
「はいはいっ。バク支部長、南が潰れますからっ」
花束を抱えた腕に、更に菓子折の紙袋を幾つも引っ掛けられる。
あまりの重さに耐えきれなくなる前に、後ろから伸びたリーバー班長の手が私の腕を支えてくれた。
す、すみません。