第73章 あくまが来た日
「空想科学小説でいう"ワープ"というものだな」
「あの…なんでまた此処にいるんスか、バク支部長…」
「この方舟本体は、今は教団本部の上空に位置しているのか?椎名」
「あ、はい。そうです」
「って話聞け」
唐突にバク支部長に話を振られて応えれば、即座にリーバー班長のツッコミが入る。
徹夜続きで疲れてるからか、遠慮ないな班長。
まぁこんな個性の強い支部長相手に、遠慮なんてしてたら振り回されるだけだけど…。
「しかしこの方舟は幾つもの"部屋"と呼ばれる空間を所持しているらしいな。エクソシスト達がノアと戦った空間やAKUMA生成工場(プラント)や謎のピアノ部屋…他には何か変わった部屋はあったか?椎名」
「まだそこまで全部は把握できてなくて…」
「うむ。そうか」
「だから話聞けっつってんでしょーが。此処は科学班以外、立入禁止です」
「僕は優秀だから安心したまえ、リーバー班長」
ドヤ顔できっぱり言い切るバク支部長に、ピクリとリーバー班長の眉が潜まる。
わ。
疲れてる分、怒りのゲージも早く溜まるかも。
コムイ室長も遠慮なく殴り飛ばせる人だから、沸点が達したらバク支部長にだって遠慮なく拳を出すかもしれない。
「リーバー班長、私が支部長を外に連れて行きますから」
それを止める意味でも、軽く白衣の袖に触れて言えば、薄いグレーの目が私に向いて。
「…ああ。余計な仕事増やして悪いな」
力なく肩を落として、ぽんと頭に軽く手を置かれた。
「バク支部長、質問は受け持ちますから。私と外に出ましょう」
「だから僕は優秀だと言ってるだろう。此処の解析を手伝ってやろうではないか」
「……遠慮します」
「何故だ!君達科学班だけではこんな膨大な仕事量、回せないだろう!?」
いや、その仕事を余計に増やしてるのは貴方です支部長。
「いいから大丈」
「察してあげて下さいませ南殿!!」
「うわっ!?」
とにかく支部長を外に連れ出そうとすれば、傍についていたウォンさんに急に物凄い剣幕で迫られた。
ち、近い近い!