第72章 欲しいもの
愛しい程に心地良いその存在を感じながら、目を瞑る。
そのまま微睡んでしまいたくなって、ぐっと我慢した。
此処で寝落ちたら後々面倒なことになりそうだし。
…そろそろ南を解放してやらねぇと。
「…あんがとな、南」
腕の力を緩めて声をかければ、背中を撫でていた手がいつの間にか止まっていることに気付いた。
「…ん…、」
帰ってきた相槌のような返事は、どこか朧気。
あー……やっぱ仕事疲れ、溜まってたんさな…。
「南、眠いんさ?」
「んー…うん…」
「じゃあ明日は、仕事終わったら部屋戻って寝ろよ?また後日、見舞いに来てくれたらいいからさ」
「うん…」
人肌の温もりを感じて眠気が促進されたのか、眠たそうな声で返す南につい苦笑する。
クロちゃんの腹の騒音にも構わず眠れるってとこ、凄いけど。
タップ達と仮眠室で雑魚寝してるって言ってたしな。
男の鼾に紛れていつも寝てんだろ、きっと。
………それ想像するとあんまし良い気はしねぇけど。
「南もお疲れ様さ」
体を離して優しく頭を少しだけ撫でる。
薄暗い布団の中で距離ができて見えた、眠そうな暗い色の目は。
「…ん、」
少しだけ照れ臭そうに緩まって、こくりと頷いた。
…嗚呼、これ。
あのロードの夢ん中で、オレを叱咤した後に見せてくれたのと同じ。
オレの好きな顔だ。