第72章 欲しいもの
「ラビって時々、おっきなわんこみたいだよね…名前は兎さんだけど」
「…だから兎じゃねぇって」
大型犬ってより狼です。
こうして耐えてる自分を褒めたいくらい。
「…そう見えるからか、わかんないけど……怖くなかったんだよね」
「?」
何が?
「この腕の中も…怖くないんだよ、ね」
噛み締めるように呟きながら、小さく息つく吐息が聞こえる。
なんさ、怖くないって。
それは男として非常に微妙な心境だけど…や、怖がらせたい訳じゃねぇんだけど。
意識されてないっていうか…。
「…ラビって凄いと思う」
「は?」
唐突な褒め言葉に戸惑う。
だから何が。
「……私も任務先で散々だったからさ…なんとなく気持ちはわかるよ。……だから入院してる今だけね」
胸に軽く押し付けられる南の額。
軽く背中に回った手がぽんぽんと労うように撫でてくる。
まさかそんな行為されるとは思ってなかったから、驚いた。
割と南とは普段からスキンシップ取ってるから、抱きしめるくらいで理性飛ばしたりしねぇけど…。
現状、布団の中で密着状態。
暗くて余計に感じる体の柔らかさとか、余計に聞こえる息遣いとか…。
………うん。
南の補充優先でそう気にしてなかったけど、気にしてしまうと…駄目だ。
…………これは…その…まずい気がする…。
やべー…本当に狼になったらどうしよ…。
「沢山、お疲れ様…本当に」
労うような、優しい声が耳に届く。
親身に安心したような声。
思わず体が固まる。
「…お疲れ様」
その言葉を聞くと、さっきまで悶々としていた気持ちが薄れていくのがわかった。
背中を撫でてくれる小さな手。
心に浸透する優しい声。
オレよりずっとずっと小さな体で、オレにずっとずっと大きいもんを与えてくれるその存在。
あー……駄目だ…。
…やっぱ欲しいさ。
オレ、この人が欲しい。
心が手に入らないなら、体だけでもなんて。
そんなつまらないことは言わない。
そんな簡単に割り切れる想いじゃない。
南のこの心も体も残さず全部、丸ごと欲しい。
それ全部あってこその南だから。