第72章 欲しいもの
「ちょっ、と、ラビ…っ」
「任務で散々だったんさ。その分の南の補充ってことで」
額に一つ、髪に一つ、唇を押し付けていく。
口にしたのは半分本音。
二度も"死"を感じて、二度も南を強く恋焦がれて。
そんな散々な目に合って、やっとこうして触れられたんさ。
いいだろ少しくらい抱きしめたって。
いいだろ少しくらいキスしたって。
これは挨拶です。
そういうことにしておこう。
「散々って…ふゃッ」
耳元にちゅっとリップ音を立ててキスすれば、ビクついた南の口から上擦った声が上がった。
…うわやべ。
これ以上はオレが本当に反応しちまうかも。
オレってか、オレの息子が。
主に下半身が。
「補充が天国と地獄の狭間なんて…きつい…」
もっと南を堪能していたいのに、これ以上やったら収拾つかなくなりそうで進めないこのもどかしさ。
触れたらもっと欲しくなる。
もっと色々触っていたくなる。
……でも傷付けたくねぇし、もうあんな怯えた顔はさせたくない。
このどっち付かずの葛藤。
……悩み多き年頃なんです。
思わず項垂れてぼやけば、腕の中の南が身を捩った。
「息苦しいんだけど、この中…っ」
「…んー…もうちょっと」
方舟から降り立った時も、ジジイとユウとリナリーに邪魔されて南のことしっかり堪能できなかったし。
そんな南を腕の中から逃がさないようにぎゅっと抱く。
あと3分。
1分でもいいから。
延長タイムお願いします。
「……はぁ」
そんなオレの心の虚しい叫びでも届いたのか。
小さな溜息が聞こえると、腕の中の存在は大人しくなった。