第72章 欲しいもの
「セ、セクハラで訴えますよ」
「ハグは挨拶の一環だって言ったろ」
「…私は日本人です」
「此処は英国さ。その土地に合った交流の仕方しねぇとなー」
「っ…」
苦し紛れな言い分を片っ端から折っていく。
すると丸め込まれた南は不服そうな気配を醸し出しながらも、言葉を呑み込んだ。
すぐ傍に感じる体温に、柔らかい体。
布団の中っていうその状況も重なってか、なんかすげードキドキする。
本来ならセクハラで訴えられても仕方ねぇんだけど…こうやって黙り込んでしまう南が悪いんだからな。
そういうことにしておこう。
「ってことで、キスしてい?」
「………は?」
勢いって怖ぇよな、本当。
そういうことにしておこう。
「英国の挨拶の練習。不慣れな南さんにオレが指導してやるさ」
「え、は?いや、ちょ…っ何言ってんの」
「大丈夫だって。もうあんな激しいやつはしねぇから」
「あんなとか言わないっ」
見えなくてもわかる。
多分今、南の顔は真っ赤なんだろうな。
オレのこと兎扱いしてくるけどさー。
オレ割と狼だからな、そこんとこ。
喰っていい相手だったら、此処でも遠慮なく手ぇ出すからな。
バレそうでバレないのって余計ドキドキするし。
そういう声出せないシチュエーションで耐える南の姿とか───…やべ。
想像したら変に反応しそうになった。
やめやめ、オレ。
「挨拶のキスなんて掠める程度さ。こうやって」
「っ!」
ここはアレンじゃないけど紳士的に、本当に挨拶程度のキスを送る。
一瞬だけ頬を掠めたそれは、意識しなきゃ実感できない程。
「な、一瞬だろ。南は構え過ぎなんだって」
「……こんな状況下で構えるなって方が無理でしょ…」
…まぁ、確かに。
「…ま。慣れるのが一番さな」
「っ!?」
ふに、と頬に今度はしっかりと唇を押し付ける。
単なる頬ちゅーだろ。
そんなビクつくなさ…本当、不慣れなんさなぁ。
………ま、可愛いけど。