第72章 欲しいもの
わざとじゃないだろうし、多分"南のことを好きなオレ"じゃなく"オレ自身"を見て言ってくれてるだろうから。
そんな南を責める気はないんだけど…。
「ちょっと、ラビ。我慢の限界って何。私何か気に障ること言った?」
布団の奥に潜り込んだオレを、追いかけるように南が顔だけ覗き込んでくる。
ちょ、こっち来んなよ。
今のオレの顔見んなって。
多分赤いだろうから。
「何かあるなら言って。ちゃんと謝るから」
…その病人相手の優しさも、今は要らねー。
下手に優しくされたら、甘えたくなるだろ。
「ねぇってば。ラビ」
「……南」
「何?」
相変わらず辺りはクロちゃんの盛大な腹の音が木霊していて、合間に聞こえるティドール元帥の声とユウの罵声。
…とうとうまたキレたんだろうな、ユウの奴。
そうやって結局静かにならない騒がしい病室だから。
だから、そんなこともできたのかもしれない。
「だから何───…っ?」
覗き込んでくる南の腕を掴んで、強く引き寄せる。
軽い体は呆気なく傍に寄って、そのまま布団からはみ出さないようにオレの腕の中に閉じ込めた。
「っ!?な、何…ッ」
「煽った罰。無自覚ってのが一番タチ悪ィんだからな」
布団で隠したまま、その中で密着した南の体を強く抱きしめる。
「ま、周りに見られる…ッ」
「気付かれねぇさ。南が暴れさえしなけりゃ」
ユウの騒動に、また周りの目は向いてるだろうし。
そう言えば、照れ屋な南だからこんな状況で目立つ方が嫌だったんだろう。
強い抵抗が弱まった。
…おお、咄嗟の言い訳が効いたさ。
「っ…煽ったって…私、変なこと言ってない、けど…」
「うん、変なことは言ってねぇな。可愛いことは色々言ってくれたけど」
「ッ…!」
大人しくなった南をいいことに、抱き込んでゼロの距離で言葉を伝える。
距離の近さにその顔は見えなかったけど、伝わってくる体の動きや気配で動揺したのはわかった。
…照れてんさな、今。