第72章 欲しいもの
…ま、それに。
「オレは、南が普通の人でよかったと思ってんさ」
「え?」
そこでニッといつものように笑ってみせた。
「だってその方が恰好良くAKUMAから南を守れるだろ?」
最後のその言葉は、茶化したものだったけど。
そんなオレに南は目を丸くして──
「…うん」
笑った。
「ラビは間違いなく、私のヒーローだよ」
…え。
…ちょっと待って南さん。
そこ呆れるとこだから。
オレ、今ボケたから。
ボケが弱かったかもしんねぇけど、でもボケたから。
はいはいって、いつもなら呆れた顔して笑うだろっ?
そこ呆れるとこだから!
そういう優しい笑顔浮かべるとこじゃねぇから!
「クロル君の思念から助けてくれた時も、凄く恰好良かった」
…だからそうやって笑うなって。
「ちゃんと私の記憶にはっきり残ってるよ。その時のラビの姿」
……だからそんな声でオレの名前呼ぶなって。
「ありがとう、ラビ。私…ラビと出会えて、よかったな」
………あー、もう。
「………もー我慢の限界…」
「え?何…ってちょっとっ!?」
南の手を離して布団の中に潜り込む。
照れもあったけど、それ以上に。
そんな顔でそんな声でオレに出会えてよかったとか言う南を前にしてたら、抱きしめられずにはいられなかったから。
その前に退散。
またユウの痛い肘打ち喰らったら堪んねぇし。
ほんとさー…そうやって胸にくること言うなよな…。
オレがどんだけ我慢してんのか、わかってんのかな…。
これが一方的なオレの片想いなら我慢もできるけど。
オレの想いをちゃんと伝えて、それをちゃんと受け止めてくれて、答えを出すって言ってくれた。
そんなオレの想いを片時でも、受け止めてくれてる南にそんなこと言われたら、期待しちまうだろ。
抱きしめたくもなるだろ。
ちゅーしたくもなるだろ。
あわよくば肌を重ね………すみませんごめんなさいちょっと調子乗りました。
……でもその欲はあるんだからな。
好きな相手だから当たり前だろ。