第72章 欲しいもの
「ロードっていうノアと戦り合った時にさ。そいつの夢に呑まれちまって…自分を見失ってた時。オレに正気を取り戻させてくれたのは、南のその言葉だったんさ」
「ロード…?」
「自分じゃどうにもできなかった思いを救ってくれたのは、南の言葉だった。…あんがと」
驚いたようにオレを見てくる南の手を握る。
「力は小さくても、南の心はオレにはでかかったんさ。オレを守ってくれたのは、その心だ」
南のあの言葉がなかったら、今のオレはいなかったかもしれない。
そこに明確なもんはないけど、でもこれだけは確かだったから。
あの時オレを守ってくれたのは、きっと南自身。
「………」
返事はなかった。
南の目が、更に驚きで丸くなる。
…そんなに変なことオレ言ったっけ?
「………本当に…?」
あ。
「…本当に…そう思ってる…?」
語尾が震えた小さな声。
やっとのことで絞り出したような、そんな声。
"本当に、そう思ってる?"
それはあの時聞いた、見透かすような声じゃなかった。
少しだけ泣きそうな、そんな声。
「…南…?」
南の手を握っていた自分の手に力が入る。
「私…そんな強い心、持ってないよ…」
俯く顔。
ぽそぽそと零れ落ちる声は拙い響きをしていた。
「それでも…少しは力になれたのかな…」
科学班としてエクソシストをよく気遣ってくれる南は、オレ達の力になれないかってよく考えてくれる。
だからその言葉は、初めて聞いたものじゃなかったんだけど。
それでもなんだか儚いその言葉に、少し胸が締め付けられた気がした。