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科学班の恋【D.Gray-man】

第72章 欲しいもの



「はいはい、兎ね兎」



笑いながら南の手が再び林檎をカットし始める。
そんなさり気ない言葉や仕草に、胸がじんわりと温かくなる。

こうして見舞いに来てくれる南は、毎日優しくしてくれた。
いや、別に普段が優しくないとかそういう意味じゃねんだけど。
さり気なく体を労わってくれたり、我儘だって嫌な顔せず聞いてくれたり。
こんな南の優しさを感じられるなら、ずっと病人でもいいかなーって思っちまうくらい。
南のくれる優しさは温かかった。



「はい、どうぞ」



カットされた兎の形の林檎が乗った皿を差し出される。



「どうせなら、食べさせて欲しいなーとか…」

「そこまでのサービスはやってませんお客様」



ちぇっ

言ってみたけど笑顔で速攻拒否られた。
優しいけど、南って割と照れ屋なとこあるからなー。
ここまではノってくれなかったか。



「イタダキマス」

「どうぞ」



しゃりしゃりと林檎を租借しながら、ふと南の顔色を伺う。
…目の下の隈、また濃くなってねぇ?



「南、また残業漬けだったんさ?」

「ん?ああ…うん、まぁ。方舟の解析で忙しくって」

「ふーん」



アレンが操れたノアの方舟は、元々千年伯爵のもの。
敵側の所有物を奪えたことは大きく、教団に帰り着いてから日夜科学班はその解析に追われているらしい。
その合間にこうして見舞いに来てくれてるんだから、あんまり寝れてねぇんじゃねぇかな…。



「…オレらもそろそろ退院できるだろうしさ。見舞いは今日が最後でいいさ。仕事終わったら部屋戻って寝ろよ」



本当は、来てほしいんだけど。
南に優しくされんのは勿論嬉しいけど、何よりその顔が見たいから。

…二度、方舟の中で自分の"死"を感じて。
二度、オレは南を失ったと思った。

だからこそこうして触れる距離にいて、当たり前に言葉を交わせることの大きさを実感している。
こうして少しでも南と一緒の時間を過ごせるのは、今のオレには酷く貴重なものだった。

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