第72章 欲しいもの
「───…ぁぃたた…」
「大丈夫さ?」
「うん、軽いタンコブだけだから。平気だよ」
頭に看護婦さんから貰った氷水の袋を当てながら、小さな悲鳴を零す南。
その顔を伺うように覗けば、軽く笑って返された。
その笑顔にほっとする。
さっきは本当に寿命が縮まるかと思ったさ…。
「血気盛んなのはいいことだけど、周りに怪我させちゃ駄目だよ?ユーくん」
「………」
本来なら頭から落下して大怪我は真逃れない事故だったはずのそれを、止めたのはティエドール元帥だった。
流れるような動作であっさりと南の体を引き寄せてタンスから遠ざけた。
速くて一瞬、わかんなかったさ……やっぱり元帥なんさなぁ、ああ見えても。
お陰で壊れて飛んだタンスの小さな破片が、南の頭にぶつかっただけで済んだ。
そんなティエドール元帥にくどくどと説教喰らってるユウも、流石に悪いと思ったのか。
逃げ出さず大人しくベッドの中で座っていた。
…頭の血管、凄いけどな。
またプッツンしなきゃいいけど…。
「それより、はい。今日のお見舞いの品。科学班の皆から」
「お。さんきゅー」
ベッドの横の椅子に座ったまま、南が差し出したのは見舞い品のフルーツ盛り合わせバスケット。
それを笑顔で受け取って礼を言う。
こうやって毎日、何かしら皆に見舞いの品持ってきて顔出してくれるんだよな。
律儀っていうか、なんていうか…どうせならそれをオレだけにしてくれると、もっと嬉しいんだけど。
まぁこれが南らしさだから、そんな贅沢は言わない。
「なー南。オレ林檎食べたいさー。カットしてくれる?」
「うん?いいよ」
二つ返事で頷いて、看護婦さんから借りたナイフで林檎をカットし始める。
「どうせだからアレがいいさ。兎の林檎」
「何それ共食い?」
「違ぇよ」
そんな南に笑顔で催促すれば、まじまじと真顔でそんなこと言うもんだから速攻否定した。
オレ兎じゃねぇから。
ジジイが勝手につけた偽名だからそれ。