第72章 欲しいもの
「はぁ…」
潜った布団の外から聞こえる、盛大なユウの破壊音とクロちゃんの腹の音につい溜息が零れる。
明らかに心休まらないそんな場所に、逃げ出したくなった。
アレンもいつの間にか、大量の飯の食い跡残して消えてたし。
…でも此処を動けない理由が一つ。
「……そろそろ、かな」
こっそり布団の中から顔だけ出して、時間を確かめる。
オレの記憶が正しければ、10分前後でそろそろ顔を見せるはず。
「すみません、」
あ。
控えめな声が病室の入口から聞こえて、思わずガバッと顔を上げる。
同時にひょっこりと、そのドアの外から顔を覗かせたのは。
「お見舞いに来ましたー…」
オレが待ち望んでいた顔。
南だ。
なんとかアレンが方舟を操ったおかげで、間一髪"次元の狭間"から生還できたオレやユウ達。
だけどその体は充分ノアとの戦いで痛手を負っていて、教団に戻るや否や強制入院させられた。
それから五日間。
身体的にそろそろ退院できるだろうけど、まだ婦長に許されないからクロちゃんの腹の騒音とこうして闘ってる。
こうしてティエドール元帥が見舞いに来てユウが暴れるなんて光景も、何度も見た。
感じるストレスは凄いけど、それでも此処を離れない理由は一つ。
入院してから毎日、南が見舞いに顔を出してくれるから。
今日もオレの予測した時間通りに、見舞いに来てくれた。
くれたんだけど。
「失礼しま───…?」
病室に踏み込んだ南の顔に、ふっとかかる影。
きょとんと見上げる南。
そこにはユウが今し方暴れて放り投げて、宙に浮いた病室のタンスがあって。
「げっ!南!」
咄嗟にベッドから飛び出す。
それでも伸ばした手は到底届かず、南の頭上から一気に───
ガシャンッ!!!
タンスは真下に落下した。