第71章 〝おかえり〟と〝ただいま〟
「ええ加減にせんか!」
「うぜぇッ」
「セクハラしないの!」
「ふぐブッ!?」
あ。
急になくなる強い抱擁。
見ればブックマンの飛び膝蹴りと神田の肘突きとリナリーの鉄拳がラビに衝突して、物の見事に吹き飛ばされていた。
私が吹き飛ばされなかったのは、同時に後ろに引っ張られたから。
「全く。女性が嫌がってる時はしつこくしない」
呆れたようにラビに言いながら、しっかりと私の体を支えたアレンによって。
「いってぇ…!オレ怪我人なんだけど!?」
「じゃあサッサと医務室行け、このタコ」
「頭の薬でも貰って来い、馬鹿モンが」
「セクハラ魔は女の敵だから」
頭を抱えて呻くラビに、容赦なく三人の言葉が降り注ぐ。
うわ…本当に容赦ないな…。
………というか、
「み、皆も、おかえりなさいっ」
つい目の前のラビに目が向いてしまっていたけど。
他の皆も負けず劣らず、ボロボロな身形をしていた。
神田なんて団服着てるの、ズボンだけだし。
上半身の服どうしたのそれ。
リナリーなんて…なんて……………あのキューティクルいっぱいの美長髪がなくなってるし…っ
あんなショートになっちゃって…コムイ室長、絶対泣く気がする。
「沢山、本当に…お疲れ、様」
なんて声をかけたらいいのか。
上手い労いの言葉なんて思いつかなくて。
そんな覚束無い言葉を吐きながら、でもせめて笑顔だけは見せようと笑った。
クロウリーが一番の重傷者だってティエドール元帥が言っていた。
意識もない程の重体に、不安は募るけど。
皆のボロボロな姿に、心も痛むけど……でも、何よりも。
「本当に…生きていてくれて、ありがとう」
そのことを一番に、喜ばないと。
「南さん…」
私を支えるように傍に立っていたアレンが、ふわりと笑う。
「ただいま」
その顔はほっと安心したような、息つく笑顔だった。