第71章 〝おかえり〟と〝ただいま〟
「あれ。…もしかしてラビ…泣いてます?」
傍で聞こえたアレンの声にはっとする。
つい目の前のラビの姿に目が奪われてしまってたけど、そうだアレンも傍にいたんだ。
伺うように、アレンの顔がラビに寄る。
「っ」
それは無意識の行動だった。
無意識に、咄嗟に。
伸ばした私の手は、ラビの顔を引き寄せていた。
「っ……南…?」
「南さん?」
驚いたようなラビの声と、怪訝なアレンの声が重なる。
伸ばした両手を後頭部に添えて引き寄せれば、ラビの顔はぽすりと私の肩に大人しく乗った。
え…ええっと…。
「何やって───」
「これは科学班の出迎え儀式ですッ」
数日前に聞いた、呆れるような科学班の皆の言い訳を咄嗟に口にして、ぎゅっとラビの頭を抱く。
ごめんアレン。
でも…見せたくないって思ったんだ。
泣きそうな声で、儚く見えたラビの姿を。
私の弱い姿を、ラビがその胸を貸して隠してくれたのと同じ。
同じ年頃のエクソシストの中では、割と弄られキャラなラビだから。
こんな姿を誰かに弄られるのは、私が嫌だった。
「…そんな出迎え儀式あったんさ?…オレ、初めて知ったけど」
ぽそぽそと、大人しく私の腕の中に顔を預けたままラビが言う。
ですよね、そうですよねっ
……でも今は大人しくしてて下さい。
「特別な時限定なんです。いっぱいいっぱい、頑張ってきたんでしょ」
任務に特別も何もないけど…でも。
触れてわかる。
近くにあるラビの体から漂う、焦げた臭いと血生臭さ。
ボロボロなその肌もどこか焼け焦げた跡があって、その間に血色も見えた。
…きっと私じゃ想像もつかない、大変な体験をしてきたんだ。
「いっぱいいっぱい、痛い思いして。いっぱいいっぱい、戦って。それでもこうして…ちゃんと帰ってきてくれたでしょ」
無意識に、少しだけ抱く腕に力が入る。
「…ありがと」
生きていてくれて、ありがとう。
帰ってきてくれて、ありがとう。
この感謝の思いは、きっと尽きることはない。