第71章 〝おかえり〟と〝ただいま〟
「任務も…色々大変だったって…少しは聞いてたから」
「………」
「お疲れ様…とにかく無事でよかった」
「………」
「…ラビ?」
ほっと安心しつつ、掴んでいた両手首を離す。
もうその手は私の頬を抑えたりはしなかったけど、片方だけ見える翡翠色の瞳はじっと私を見下ろしたまま。
丸くして、一向に反応を示さなかった。
思わず怪訝に呼べば、その目はじっと私を見下ろしたまま──
「…あ、うん。…ただいま、さ」
どこか覚束無く応えた。
ぽつぽつと、ぎこちなく言葉を紡ぐように。
「ラビ?」
今までラビから貰った「ただいま」という言葉を、こんなふうに返されたのは初めだった。
思わずもう一度名前を呼ぶ。
どうしたんだろう、体の怪我でも痛むのかな。
「どうしたの、怪我が痛む?」
「…いや…南の本物確認で、つい忘れてたっていうか…」
「?」
何が。
「…帰ってきたんだなーって。なんか、今、思った」
ぎこちなく、ヘラリと笑う。
いつもの彼の緩い笑みのようで、少し違う笑み。
「ちゃんと…帰って、来れたんさなって」
そのまま、目元に自分の手首を押し付けて───…あ。
「やべー…男らしく言うつもりだったのに…」
目元を手首で隠してるから、表情は見えない。
でもその口元は、笑っているようで笑っていない。
その声もどこか小さく震えて。
「…ただいま」
もう一度。
言い直すように、ラビの口が開く。
小さな声で、その言葉を噛み締めるように。
「…ラビ…」
その姿に、どうしようもなく胸が締め付けられた。
なんて言ったらいいのか、この思いの名前はよくわからないけど。
どうしようもなく、胸がぎゅっとした。