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科学班の恋【D.Gray-man】

第71章 〝おかえり〟と〝ただいま〟



湧き上がる感情のままに、口を開く。



「ラ───…ひゅ。」



……うん。

その名を呼ぼうとした。
ずっと心で呼びかけていたその名を、やっと口に出せる。
やっと呼べる。
だからこそ迷わず、その名を口にした。
したんだけど。



「…なにひゅんの。」



駆け寄ったラビは、その名を紡ぐ前に私の頬を両手でむにゅっと挟み込んだ。
…何急に。



「本当に南さッ?今度は偽者じゃねぇ?」

「は?いみははんない…ってひょっと」



むにむにと遠慮なく両手で頬を挟んでくるから、おちょぼ口になってしまう。
そんな私の顔を、真面目に食い入るように凝視するラビ。

ちょっと、開口一番それ?
というか間抜け顔になってそうで、そんなに近くで凝視しないで欲しいんだけど。
確かにずっと子供の姿だったけど、ちゃんとコムイ室長に体戻してもらったんだから。
私は偽者なんかじゃありませんっ



「にへものちはうからッ」



とにかく頬を挟んでくる両手首を握って、無理矢理にでも離させる。



「私は正真正銘の椎名───…って違う」

「は?違う?」



名乗りを上げようとしてはっとする。
駄目だ、ついラビのペースに呑まれかけてた。
何やってんの私、ちゃんと出迎える時は一番にしようとしてたことがあったのに。



「あー…えへんっ。ごほごほっ」

「…何やってんさ南。風邪?」



違います。
何度も咳払いをして気を取り直して。



「ラビ」

「?」



名前を呼ぶ。
今度こそちゃんと、しっかりと私の声で口にして。






「おかえりなさい」






不思議そうに見返してくるその顔を見上げて、浮かべたのは笑顔。
今の私ができる、精一杯のもの。



「ありがとう…無事に帰ってきてくれて」



あちこちボロボロな姿は凄く心が痛んだけど、それ以上に今は目の前にいてくれるその姿に、どうしようもなく感謝したから。
当たり前に私の名前を呼んで、当たり前に私に触れてくれる。
その存在に、どうしようもなく心は満たされた。

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