第71章 〝おかえり〟と〝ただいま〟
歪みそうになった顔を止めたのは、続いて聞こえた声だった。
「やっと帰り着いたか…」
「クロス元帥、何処にも行っちゃ駄目ですよ」
「チッ…なんで俺がこいつを運ばなきゃなんねぇんだ」
「そう言わない。クロウリーは一番の重傷者だからね」
「はぁ…寿命が縮まったわ…」
「よく頑張ってくれたな、ミランダも。お疲れ」
ぞろぞろと次々に届く声。
はっと顔を向ければアレン同様、方舟から現れる皆の姿が見えた。
やれやれと溜息をつくクロス元帥に、繋ぎとめるように声をかけるリナリー。
仏頂面でクロウリーを担ぐ神田を、宥めるティエドール元帥。
深々と溜息をつくミランダさんを、優しい顔で労うマリ。
そして。
「はぁ~…体中いってぇなー…」
「全く、ヒヤヒヤさせおって…二度とごめんじゃぞ、あんな事態」
「ししっ♪ジジイ泣いてたもんなー?オレのこと心配し」
「喧しいわ!」
「イデッ!」
ブックマンの鉄拳を頭に喰らっている、赤毛のその人。
そのブックマンに怒られる様は初めて出会ったあの日の彼と同じ。
でもあの時は微塵も感じていなかった感情が、私の中で湧き上がる。
「あれ…南さん?」
「え?」
最初に足を止めたのは、リナリーだった。
その声に反応した翡翠色の目が、私に向く。
「………南?」
僅かに丸くなる翡翠色の片方だけ見える瞳。
そう、小さな声で呟いた名前は確かに私の名前で。
「っ」
はっとしたように表情に感情が入ると、バタバタと駆け寄ってきた。
「南…!」
駆け寄る体。
その姿はアレンと同じだった。
団服はリナリーに貸しているみたいで、真っ黒な中着だけの姿。
でもその中着もズボンもヘアバンドも、身に付けているものは全てボロボロ。
その顔や腕や、見える肌は全て擦り傷だらけ。
そんな傷付いた姿は私の心を痛めるのに、今はそれ以上の別の感情が湧き上がった。