第70章 その言葉を交わすために
「とにかく出ますよ、ここから。全く世話の掛かる」
え、いや。
なんか黒いんだけどアレンさん。
つか、ここからって何───
───ピキッ
聞こえたのは亀裂音。
真っ暗な闇に一筋の光が差し込んだ。
───パキキ…ッ
亀裂音が大きくなる。
そしてそれは一瞬だった。
「───っ!」
一気に目も眩むような明るさで、割れた亀裂が辺りを照らす。
途端、
「ぶは…ッ!」
「ゲホッ!げほ…!おぇ…!」
吸い込んだ空気に、一気に喉が悲鳴を上げた。
「ぐあ…ッい、息吸うの痛ぇえ…!」
思わず喉を抑えてその場に倒れ込む。
「げほっ!ゴホッ…!」
隣で同じように倒れ込んだアレンを見れば、その体に纏った白いマントがオレの体にも張り付いていた。
…あ。
もしかしてこれで火判の炎から、守ってくれたんさ?
「っは…はぁ…っは…ッ」
ひりひりと喉が強く痛む。
喉の奥まで焼けた声は、まともな音にならなかったけど。
「は…はは…生ぎでら…」
気付いたら笑っていた。
「なんでずか…生きでだら文句あるんでずかッ」
「無茶ずんなぁ、アレンは」
「その台詞のし付げて返じでやる馬鹿ラビッ!!」
お互いに倒れ込んだまま、口から出るのは散々なダミ声。
見上げた空間の天井には、オレが放った火判の残骸があちこち固まって残っていた。
さっきの亀裂音も、この残骸から抜け出した時のもんだ。
見間違いようがない。
此処はノアの方舟ん中で、ロードと対峙した最上階の部屋。
「ゲホッ…はは…」
状況はまだ改善していない。
ロードの夢からは脱出できたけど、未だノアの方舟の中。
崩壊が始まってるこの方舟のタイムリミットも、きっと残り僅か。
それでも、笑いは途絶えなかった。
───生きてる
そのことが何より、オレの心を満たしたから。
───オレはまだ、生きてるんだ