第69章 夢世界
『…ちゃんと帰らねぇと、泣くかな…』
任務先でのエクソシストやファインダーの死亡報告を聞いて
苦痛を感じるように、顔を一人で歪ませていたっけ
そんな顔させて、泣かせてしまったらどうしよう
…いや、多分
泣かないだろうな
弱い自分を知っているから
だからこそ南は簡単に涙なんか流そうとしない
そうやって、一人で呑み込むんだ
『…帰らねぇと』
簡単に周りに見せられないなら
オレが隠してやるから
誰にも見られないよう、抱きしめておくから
…帰らねぇと
南の傍にいねぇと
じゃなきゃまた一人で呑み込んじまう
だからこんな所で
寝てる場合じゃない
「…あ~……いってぇ…」
バシャ、と強く地面に手を付いて水が跳ねる。
「"ラビ"…っ!?お前…ッ」
「暴走しやがって、このタコ…あ~、最悪…」
なんとか足を踏ん張って、ふらりと体を起こす。
「正気か…!?」
「正気…?お前が言うのかよ」
未だに血が滴る口元に笑みを浮かべて、もう一人の"オレ"を見る。
そいつはなんとも驚愕めいた顔をしていて、滑稽でついまた笑っちまった。
「自分で自分を刺して…ッ!?」
その目は、オレの胸に刺さったナイフを凝視していた。
オレの胸に深々と刺さったナイフは、南の幻が握っていたものじゃない。
オレが最初から手にしていたナイフ。
「へへ…危ねぇ危ねぇ。精神の死ってのは、正気を失うってことだろ?」
オレの口から零れるこの血の原因は、南の放ったナイフじゃない。
元からオレが自分の胸に突き刺した、このナイフの所為だ。
「あの瞬間、こうでもせんと正気を保ってらんなかったんでね」
南の姿を使ってあんなこと言うとか、本当タチ悪ィ。
オレの弱いとこ突いてきやがって。