第69章 夢世界
「ありがとう。後は自分でやるから」
「…手伝おうか?」
「罰ゲームだし、いいよ」
梯子を下りて、手早く本をまとめていく。
その背中に声をかけても、顔さえも振り返らずに断られた。
…なんさ、やっぱりオレのこと嫌いなんか。
さっきのはそれ故に出た言葉だったのか、なんて思っていたら。
「ラビも何か調べものあって、此処に来たんでしょ?私は大丈夫だから」
そう振り返った南は、普通に笑っていた。
ジョニー達に向ける笑顔と同じ。
"偽り"のない素の笑み。
初めてオレに向けられたその笑顔に、何故か言葉が詰まった。
南はリナリーみたいに、誰もが認める"可愛い"という容姿はしていない。
極々普通の顔立ちした、一般女性。
だから見惚れたって訳じゃないと思う。
オレの好み、色気ある年上美人だし。
ついでに未亡人とか魅力的だよな。
「……ん。そっか…わかった。なんかあれば言えよ?手伝うさ」
「ありがとう」
詰まった原因はよくわからねぇけど、それ以上その場にいられなくて足早に去った。
南はオレの"仮面"が見えていたかもしれない。
でも、そんなオレに南が向けたのは仮面のない顔だった。
向けてくれたのは"自分自身"だった。
…だからなのか、わからないけれど。
後ろ髪引かれる思いがしたのは、確かだった。